クロス職人の坂口です。
今日は、かなりマニアックな施工方法「地獄のり(地獄張り)」についてのお話です。
実はこの地獄のり、ベテランの職人さんでも経験したことがないという方が多い工法。
通常、壁紙を貼るときは“クロスの裏側”にでんぷん糊を塗布して貼りますよね。
ですが地獄のりは逆。
壁紙ではなく“壁側”に糊を塗布して貼る方法のことを言います。
最近は「向こうのり」と呼ぶこともあります。
なぜ地獄と呼ばれるのか?
正確な語源は分かっていませんが、一説によると…
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糊付け機が使えない
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手間と時間がかかる
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作業効率が激減する
つまり、
施工が大変すぎて“地獄”だから
という理由だと言われています。
機械糊付けと比べると、まさに月とスッポン。現代ではまずおすすめされない工法です。
では、なぜクロスは材料側に糊を塗るのか?
「タイルは壁側に接着剤を塗るのに、なぜクロスは逆?」
そう思う方もいるかもしれません。
理由はとてもシンプルで、
✅ 糊の水分でクロスに“伸び・縮み”が出るため
先に素材に水分を与えておくことで、
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施工後の伸縮をコントロール
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ジョイントの隙間などの不具合を防止
これが美しい仕上がりのためには欠かせないのです。
現代で地獄のりを使うケース
現在この工法が活かされるのは、限られた特殊材料です。
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フリース壁紙(不織布)
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掲示板クロス
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マグネットクロス
昔は、
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寒冷紗
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レザー、フェルト
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アルミ箔の壁材
などにも使われていたそうです。
特にアルミ箔クロスは折り曲げるとアウトなので、
ラッピング工法がない時代には理にかなった工法ですね。
地獄のりの本来の手順
本来のやり方は、
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上から貼る材料に“水引き”(水を含ませる)
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オープンタイムをしっかりとる
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壁側に糊を塗り、丁寧に貼る
…と、とにかく手間と時間がかかる工法です。
最近ではスピード重視の現場が多く、
水引きしている職人さん、ほとんど見ません。笑
地獄のりは“知識として面白い工法”
現代では使うことが少ないですが、
壁紙の歴史や材料の特性を知る上で非常に興味深い工法です。
「クロスはただ貼るだけじゃない。材料と水分と時間の勝負」
そんな世界が壁紙にはあります。
たまにはこういうニッチな話題も面白いですよね。
内装の奥深さを楽しんでいただけたら幸いです(^^)
